マドンナたちの季節
10/11

42 婚礼からしばらく後、町内の女の子たちは花嫁さんの話題で持ちきりだった。とくに加代ちゃんは芙美さんに話しかけてもらったわたしをひどくうらやましがった。 「いいなあ、里美ちゃんは。あんなきれいな花嫁さんと話ができたなんて」 加代ちゃんは親戚のおねえさんの花嫁姿はあの半分もきれいではなかったと補足した。 それからしばらくたった日曜日のことだ。加代ちゃんもわたしもさすがにピンク・レディーの練習には飽きて退屈していた。そのときどちらが言い出したか思い出せないが、芙美さんを見に行こうという話になった。遠くの町からやって来たという芙美さんは、花嫁衣裳を脱いでもきっと美しい人にちがいないと思えたし、芙美さんに会いたいと思ったのだ。 「でも説教ばあさんやおじさんには会いたくないなあ。じゃあ、外からそっと覗いてみようか」 こうして話がまとまったのだ。 説教ばあさんの家には、ちょうど子どもの背丈ほどの生垣がめぐらしてあった。古い家並みが並ぶ岡山県北の町、落合では、どの家の造りもよく似ていた。家の裏には縁側があり、縁側に面して座敷があり、その奥には居間があるという作りもほぼ共通していた。道に誰もいないのを確かめると、わたしたちは生垣のなかを覗いた。天気がいいので、縁側の戸はすべて開けられ、座敷が見渡せた。芙美さんの姿は見えない。わたしたちは、なおも身体を乗り出すようにして、植え込みのなかを覗き込もうとしていた。 「あら、なにかご用かしら」

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