マドンナたちの季節
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金魚5 声に振り返ったわたしたちは、飛びあがるほど驚いた。なんと芙美さん本人が買い物篭を下げて後ろに立っているではないか。 「ふ、芙美さんがいないか、その……ちょっと見ていたの。ごめんなさい」 しどろもどろに答えるわたしに、芙美さんはさもおかしそうにクスクス笑った。「さ、いらっしゃい」、そう言うと、先に立って歩き、裏木戸を開けた。 「今は誰もいないわ。遠慮しないでね」 芙美さんは明るいクリーム色のセーターとタータンチェックのスカートを身につけていた。花嫁姿とはずいぶんちがうが、やっぱりきれいだったし、ずっと親しみがもてた。 「ちょっとそこに座って待っていてね」 そう言うと、芙美さんは奥に引っ込んだ。 わたしと加代ちゃんは縁側に腰かけると、部屋のなかを見渡した。床の間には、古びた掛け軸がかかっているだけで、ほかにはなにもないがらんとした殺風景な座敷だった。 しばらくすると、ブーンというかすかなモーターのうなりに気づいた。振り返ると、大きなガラスの水槽があり、そのなかに空気を送る音だった。水槽にはたくさんの金魚がいた。なかには見たこともないほど大きいのや変わった色柄のもいた。 わたしと加代ちゃんが水槽に頭をくっ付けるようにして見ていると、芙美さんが現れた。 「シュークリームはお好き? わたしが作ったの。遠慮しないで、食べてね」

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